よく晴れわたった日だ。いつもなら俺はこんな風な日には外に出て日光を浴びながら授業をサボって眠るのだが、今日はいつものお気に入りの木の下ではなく保健室へと向かっている。怪我をしたわけでも具合が悪い訳でもないのだけれど、
「センセー。俺眠Eー。」
「サボりなら他あたんな。」
「わ、先生ひどいC!」
「……で、またなんで今日は保健室なの。いつもの場所でサボればいいじゃない。」
「先生俺が本当に具合悪い時もそんなこと言うのー?」
「そこらへんは見極めるわよ。」
ちぇ、と小さく頬を膨らませてみる。だけど内心いっぱいいっぱいだ。この先生は妙に、的確に、痛いところを突いてくる。ベットには行かずに、ソファの上にぺたんと座る。昨日は、この場所には俺とちゃんがいて、俺の怪我の手当してくれ、て。そこまで考えた時、ふと、自分の手が昨日の傷の所を触っているのに気がついた。ぼんやりと眺めているといつの間にか先生は自分の席から離れていて俺の前を横切った。顔を上げると丁度先生が俺の隣に腰掛けてどこか悲しげに、目尻は下げられていた。
「跡部、くん?」
「んー、まーねー。跡部のボールはボレーしてとっても膝ついちゃうから足擦っちゃうC!」
「手当は…ちゃんね?」
「そそ。ちゃんって呼んでるけどね、俺。」
「来るって知ってたら、職員会議くらい行かなかったのに。」
「んー?センセー今なんか言った?」
「別に何も。この時間休んだら、さっさと教室もどんなさいって言ったの。」
「はーい。」
先生はそう言って自分の机へと戻った。和やかな、とまではいかないけれど、決して重くは無い沈黙が流れる。すぅ、と瞼を閉じると先生がパソコンを打つ音や時を刻む秒針がいつもより大きく耳へと伝わってくる。気持ちよくて、うとうとしかけた時、遠くから終わりを告げるチャイムが鳴った。パチ、と目を開けて、ソファから立ち上がってぐ、と伸びをするとパソコンに打ち込んでいる先生にひらひらと手をふって保健室を出て行った。
毎回、そうだ。彼はちょっと遊びに来ては笑顔を残して消えていく。怪我をしてても、彼の表情は苦痛に歪む事はない。でもだからこそ、私は彼に惹きつけられる。もう、1年と半年も前から。私は保健医であり、教師。彼は、ココの、私は勤める学校の生徒。こんな感情を抱いてはいけない相手。何度も何度も心の中で、頭の中で繰り返し言い聞かせてたのに、それでもこの感情は引き下がってはくれないし、思うことを止めてもくれない。一人になった室内で浮かんでくるのは彼。彼。彼。彼。そして、私の結構気にいっている女の子、ちゃん。ちゃんが彼の事を好きだといったら、わたしは応援できるだろうか。彼がちゃんの事を好きだといったら、背中を押してあげる事が出来るだろうか。物思いにふけってみるけど、表面的に言っている自分は想像できても心からとなると別だし、どちらかといえば冷たく接している自分のほうが浮かんできやすい。そんな自分に鼻で1つ笑ってやれば無意識に溜息が零れる。
「ばぁっかみたい」
つぶやいた独り言はやけに大きく室内に響く。そうだ、自分はバカなのだ。頭がいい、悪いのバカなどではなく、浅はかというか、幼稚というか。体と頭の中にある知識だけ成長していって、心の中はまだ子供、と言った状態。そんな自分に嘲笑の感情を募らせた後、吐き出すように溜息をついた。考えて考えて、それで分かった事は自分は決して大人ではないということ。少なくとも恋愛に関してはそうだと言い切れる。彼を、慈郎を愛さずに"好き"でいる、私。(恋愛に見返りを求めるなんて、子供のすることだわ。)だめだと思いながらも、生徒に、慈郎に恋慕の情を抱く、私。(教員になる時に、何度も言われてたのに、ね。)勝手に想像して(それでも、どこか確信はもってるのだけど)、ちゃんに嫉妬する、ちゃんを恨めしく思う、私。(だからわたしは稚拙で子供なんだ。)
暗くてじめじめした、天気のいい晴渡った正午まえ。
(私が教師じゃなかったら、大人じゃなかったら、)20080203